許さんぞう法師

留年が確定した。厳密に言えば確定ではなく成績再調査書なるものを教務部に行き提出、29日にその調査書を返却されそこで留年かどうかを再判定するわけだから猶予期間となるわけだが、まあ9割9分9厘留年だろう。


何故か?教務部の窓口の教員の顔を見ればそれはわかることで、彼奴等は砂糖に群がる蟻が如く必死に教務部窓口に列を成すクズ共(もちろん俺もその一員である)をにたにたにたにた笑いながら見たのち、実に事務的な態度で「では、こちらが調査書の下書きとなりますので」とぺらっちい紙切れを一枚渡した。下書きが必要なのは就活など個人的な理由を持ってして成績再調査を依頼することはできず、客観的にみて合理的な内容のみでないと再調査書は受理してもらえないというものだった。クズ共はその客観的にみて合理的な内容というものがなかなか理解できないようで何度も窓口でやり直しを食らっていた。

そうして再び列の後ろに並ぶ蟻をみて教務部の教員はまたにたにたと笑うのだった。


成績発表がなされた当日、俺は自室のPC画面を殴りつけていた。まあ120パーセント自業自得なのだが、テストで悪い点を取ったというならPC画面を殴りつけてはいなかっただろう。俺が唯一落とした単位はずばり坐禅なのであって、つまりは坐禅をするだけの講義だった。出席点、平常点が評価の全てであり、テストは一切ない。では何故落としたか、それはまあ他でもない俺が講義を休んだからなのだが、俺は4年生である。大学4年といえば、当然将来を見据えねばならぬ歳であり、それには当然就職活動なるものを始めねばならないわけで、流暢に腰を下ろして悟りを待つわけにもいかないのだった。


故に坐禅の講義よりも就職活動を優先した。といっても数回である。数回欠席しただけで4年生を落とすとは仏教はなんと心が狭いのか。つーかふざけんな。内定も当然取り消し。坐禅で。坐禅て。坐禅が出来ずに留年て。許せねえ。何の迷いもなく4年生を落とすボウズ共も許せねえ。許さん。許さんぞうほうし。俺は天竺を目指すぜモンキーマジック。と叫び、この教務部窓口まで筋斗雲で馳せ参じたのだった。


教務部の教員はにたにたと笑いながら「まあ、受理はしときます」と言った。まあ、という言葉には鼻で笑うようなニュアンスが込められていた。形としては受けとるが、評価が覆ることはないというのはもうその態度を見れば明白なわけで、俺の天竺への道は途絶えてしまった。


本当に情のない話なのだが、親には直接留年のことを言えず、LINEで伝えた。家にもいづらいのでその日のうちに荷物をまとめ、今は後輩の家に上がりこんでいる。



2月16日

後輩の家に上がりこんだ初日。

飯でも食おうというと後輩は100円も持ってないという。飯程度奢ると言おうとしたが、留年となった場合は半期卒業分の学費50万がかかるわけだから俺も無駄使いは出来ぬ。そのうち親に頭を下げて負担してもらうことになるとは思うが、その時に自分が一文無しというのは情けない。今のままでも十分情けないのだが。せめて20万ほどは自分で出さねばと思う。


仕方がないので近くのスーパーで卵を買ってきた。米は後輩の実家から送られてくるのを使い、具がない炒飯を作った。後輩の友達が来たのでスプラトゥーンをぎゃあぎゃあわめきながら見ていた。友達が帰宅したのちは撮りためていたアニメ、僕だけがいないまち、ディメンションW、だがしかしなどを見ながらこれまたぎゃあぎゃあ彼奴が犯人だのこの駄菓子が好きだっただの騒ぎながら腹が減ったらまた炒飯を作った。後輩は酒を飲まないのだが、新品の梅酒があったので拝借して炒飯と一緒に流し込むとまた美味かった。