ベーコン

手紙の書き出しは季節ごとの挨拶で始めるのが基本だ。

明けまして

早春の候

春はあけぼの


学がないのでこれしか思いつかないが、今の季節だと「ベーコンの美味しゅう季節になりましたね」これで良い。ベーコンが不味い季節なんてないので1年これでいける。春夏トレンドや秋冬モデルの着まわしを意識しなくて良い。オールシーズンこれでいける。ハイスタンダードプルオーバーパーカーだ。


一人暮らしを始めて一ヶ月がたった。

自由な時間は増えたが拘束される時間もできた。最近悩んでいるのが食事だ。

何かを食べようと冷蔵庫を開けると問題が2つ。

一つは一人暮らしだと冷蔵庫に見覚えのあるものしかないので退屈だということ。

一つはベーコンしか入っていないということだ。


ベーコンの不味い季節はないと言ったが、毎日食べ続ければ飽きる。最初は飽きるはずがないと思っていた。飽きたかな、と思っても1日経てばまた食べたくなった。ベーコンが冷蔵庫にないと、すぐに会いたくなって最寄りのスーパーに逢いに行った。この瞬間が永遠に続けばいいのにと思っていた。恋をしていたのだ。僕はベーコンに。


雨に様々な名前がついているのは、雨を風流と感じる人が多いからだろう。

霧雨、春時雨、五月雨、甘雨、氷雨秋霖

美しい日本人の感性だ。

だが毎日雨が降り続けばどうだ。風流なんて言ってる場合じゃないし名前をつけている場合でない。大洪水で人は死ぬ。


ベーコンも毎日食べ続ければ当然飽きる。胃もたれもするし、あとバランスも悪い。体調を崩し人は死ぬ。バカが。自炊をする気ないのでベーコンを焼くためだけに特化された我が家には小さめのフライパンしかない。なので今日も飯を食べに近くの飯屋に向かうのだった。雨が降っている。バカが。


グルメマンガが最近は増えた。

需要があるのだろう。生きていれば食事は必ずする。人の数だけ理想がある。

僕の理想は食べるものというよりはシチュエーションだ。僕は脇差を差して道中を歩いている。まだ侍に権力があった頃だ。こじんまりとしている定食屋に入り亭主に一言、親父、飯と酒だ。これだけで良い。すると亭主は焼き魚の定食を出し、旬の魚は美味く、酒を熱くして2本持ってきてください。亭主は熱燗を出し、満足して店を出た先に刺客の襲撃を受け切り捨て御免。


良い。刹那的だ。あとオタクだから会話は最少限にしたい。これでいこう。


だが親父、飯と酒だ、は現代では通用しない。

「ただいまの時間、モーニングでトーストと卵が付きますが、お付けしてもよろしいですか?」


付ければいい。誰も文句は言わない。

アレルギーの人がいるのかもしれないが、トーストと卵が食べれない人はコメダ珈琲店にわざわざ来ない。


他にも

ライスのサイズはラージでよろしいですか?

ご注文、そちらのタッチパネルからになります。

ラチがあかない。そもそも飯と酒だけでいいのにこのサービス、店からいうと付加価値というものに金がかかるのか普通に800円とか取られる。ベーコンは20枚で150円なのに。ベーコン100枚くらい食える。


全てに絶望した僕はスーパーでベーコンを買い帰宅。ベーコンを焼き、コーヒー豆を挽き、ベーコンを焼く。


タコザルが頑張っているので僕も週一で日記を付ける事にした。


それではまた。ベーコンが美味しい季節にお会いしましょう。